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建築家

建築家

カブルコフ: マリヤさん!

  マリヤ: 私を呼んでいるのは誰?
       八年の間 物音ひとつ聞かなかったのに、
       突然 私の耳のなかで
       秘められたネジが廻りだす。
       荷馬車の轟音がきこえるわ
       そして警護兵が代わるとき、かかとの後ろを打ち鳴らす音。
       二人の大工の話し声も聞こえる。
       ほら、一人は「マルバタバコ」と言っている。
       もう一人は、ちょっと考えて、「スープときび粥」と答えた。
       空中でモーターボートがブンブンいっている音が聞こえる。
       風によって屋根が壁をパタパタ叩いている音が聞こえる。
       誰かの小さな囁き声が聞こえる。「マーシャ!マーシャ! 」って。
       八年の間 何も聞かずに生きてきた。
       それなのに、私を呼んでいるのは誰?

カブルコフ: マリヤさん!
       きこえますか、マリヤさん?
       ぐずぐずしないで、
       下におりてきて、ドアを開けてください。   
       私はもう、ヘトヘトなんですから。
       はやく、はやくドアを開けてください!
       暗闇では人間はみな獣だ。

  マリヤ: 自分じゃあ決められないわ。
       私の主人は建築家なの。
       彼に聞いてみてください。
       もしかしたら、いいって言うかもしれないし。

カブルコフ: おお、訳のわからん平静さよ!
       まさか耳に入らんわけじゃないでしょう、
       すぐ近くでおこなわれている大規模な戦闘の轟きや、
       押し合いへしあいの恐怖で沸きかえる家からの興奮が、
       群集の悲鳴、恐ろしい戦い、
       泣き声、うめき声、
       静かな祈り、
       空の下の短い銃声が。

  マリヤ: 扇動しようったって、無駄ですよ。
       私と何の関係があるの、・・・馬や剣が?
       ここからどこへ行けっていうの?
       私はここにいるわ。
       花嫁なんですもの。

カブルコフ: 契りの枷の本分には
       ことさらの趣あり。
       露ほどの小心ももたぬ者のみ、
       むなしきよしなしごとを捨て
       ミューズの救いを刹那に求めつ
       大いなる狩りの野を駆ける。

  マリヤ: ごらんなさい!
       建築家があなたの胸を狙っているわ!
     
カブルコフ: 人殺し!
       お前の番も遠くないぞ! 

           (建築家は発砲する)

  マリヤ: ああ!
       青灰色の球で煙が空気を切り開く! 

  建築家: 道は清められた
       朗らかな日が訪れよう。
       家は終焉する、石の君主よ。
       高さと重さの調和が従う。
       目を凝らせ、歓喜せよ!
       御影石の堅い額が、
       書物によって時を蝕み、
       防壁をうちたてた。
       軽快な窓列を見下ろし、
       高みでは、嵐の女友だち、
       屋根が彼らの前に広がっている。
       空中の旗が撃たれる。
       賞賛と栄誉を建築家へ!
       我こそは、建築家である。

(1933年 春)    
 

明日、とうとうユーゴ・ザーパド劇場の『巨匠とマルガリータ』日本公演を観にいきます。

http://www.tennoz.co.jp/artsphere/yugo_top.html

モスクワで昔すごくお世話になった人がいて、
その人が一緒に行かないかって誘ってくれたのです。
昔、随分その人はユーゴ・ザーパド劇場にはまっていて、
私も一緒に何度か劇場に足を運んだもんですが・・・
この劇団の『巨匠とマルガリータ』は傑作という呼び声が高くて、
チケットを手に入れるのがなかなか大変だったものですから、
実は私、初めて観るんですよね。
うおおおおお、超楽しみ
しかもたぶん、字幕つきですよねえ。
すごい贅沢だ!

テレビシリーズ『巨匠とマルガリータ』では、
わたし、悪魔のヴォラント氏を演じたおじいちゃん俳優に甚だ不満でした。
ヴォラント氏っていうのは、
もう外見からはっきり奇妙じゃなくちゃいけないと思うんですよ。
もっといえば、ヴォラント氏は、
ハルムスに似ていなくちゃいけないと思ったりするのです。
    
20060224234905.jpg


だから、テレビシリーズの、
あの挙動不審なだけの普通のおじいちゃんはちょっとねえ。

私は昔、空港で知り合ったロシア人の教授を、
そのまま家に連れてきて、泊めてしまったことがあるのですが、
ハルムスでなければ、この人が、私の中でのNO.1ヴォラントですね。
私がキャスティング担当だったら、是非お願いしたいです。

身長はおよそ2メートル。
アルコール臭のただようグダグダのスーツ姿。
眼鏡の奥の、ちょっと無表情な目と、
いつでも笑っている薄い口元。
大声で、知っている日本の単語を連呼する、
やたらとインチキくさくも奇妙奇天烈な物腰。
私の知っているなかで、一番変な人といえば、
間違いなくこの人でした。

休暇で日本に向かう飛行機で隣り合わせたのがそもそもの出会いなのですが。
成田に着いて、なんだかずっとウロウロしているので、
「大丈夫ですか?」と声をかけたところ、
バスのチケットを買って夜行で京都に行きたいって言うんですよね。
水資源関係の学会があるとかで。
で、じゃあ手伝いますよ、といって、二人でチケットカウンターに行ったのです。
すると、その先生は受付の女の人に向かって、
「ワタシィハ、ニコライ先生デス!水ノ学会ニイキマス!」
と絶叫したんですね。
「はあ」と女の人はいってましたけどね(笑)。
思えば、この絶叫に私はやられたんでしょうねえ。

割り込んで事態を整理したところ、
夜行バスの切符はもう売り切れで。
他の可能性も探ってみたのですが、
その日じゅうに切符を手に入れられる可能性はないということでした。
ニコライ先生は学会の招聘部にいけばお金を貰えるというんですが、
その時現金はあまり持っていなくて、
できればホテルに泊まりたくないというものだから、
つい、
「じゃあ、うちに来ますか」と言ってしまったのです。
善きサマリア人ですね。

もちろん、私は人間嫌いだし、
普段は絶対そんなお人好しなこと、しないんですよ。
だけどその時は何故か、
このニコライ先生の強烈な個性に、
吸い込まれたようになっていたのです。

もともとファンタジーというか、
非日常的なことに弱いんですよね。
自分が平凡で地味だからだと思うのですが、
ゲイパレードなんて観にいくと、
自分があれの一員で、
あとに一緒についていけたらどんなにいいかと思ってしまうのです。
あとサーカスとか、手品とか。広義ではダンサーとか?
だけど、絶対にあれの一員にはなれないし、
そういう風に生まれついてはいないし、
自分が入ったら雰囲気を下げると思うし。
憧れだけが募るのです。
その私の心に、ニコライ先生はスパーンと入ってきたのですよ。
それはもう、ムチャクチャ奇妙でしたから。
バスのなかでも、都心がみえてきた瞬間にエキサイトして立ち上がり、
写真を撮り始め、バランスをくずして転がったりね。
二メートルの巨体ですから、転んだときは怖かったです。

そうして、つれて帰って、案の定後悔しました。
ニコライ先生には、
エネルギーが泉から湧き出ずるように、無限にあるのです。
私は体が弱くてすぐ疲れてしまうので、
旅を終えてうちに帰ってくると、必ず熟睡するのですが、
「日本を見たい。これから行きたい
なんて家に着いた直後に言い出すのですよ。
それを近場の多摩の景色をみせてお茶を濁し、
なんとか夕食までこぎつけましたが、
そこからがまた長かったー・・・。
ニコライ先生はしゃべりぱなしで、深夜を過ぎても解放してくれません。
おまけにうちの母親がまたしゃべりっぱなしで、
いちいち通訳していたら気が狂いそうになりました。
あんな話の長い人間同士のトークバトルを、
通訳なんか絶対出来ませんよ。
米原万里さんでも出来ないと思う。
だんだん支離滅裂になってくる私の日本語とロシア語に、
母親は不審げな表情になってくるし、
ニコライさんはかまわず押し捲るし。
家中の酒を飲みつくし、テーブルの上の食事を全部平らげ、
まあ私はロシア人男性は勧めれば底なしに受け入れると知ってますから、
そりゃあそうだろう、と思ってましたが、
母親の目が痛くてねえ。
どんな罪と罰だったのでしょうか?あれは。

次の日、ニコライ先生を新幹線の駅まで送っていったのですが、
結婚を申し込まれまして。
すいません、彼氏がいるんです、オランダ人なんです、
と仰天しながらいいましたら、
「あなたが早く結婚してしまえばいい。
 私は苦しい。もうすぐまた日本に行くから、会ってほしい」と
メールが来ました。
ニコライ先生は45歳・独身だったのですが、
そんなこと、あとからわかったのですよ。
ロシア人は老けるのが早いですから、
家につれて帰ったときには、55~60歳くらいかと思ってましたし。
当然、結婚もして、孫でもいるかな、くらい思っていたのです。
結婚とは。
びっくりしました。
まあねえ、女性が自分の家に男性を招いて泊めるなんていうことは、
言われてみれば、「OK 」のサインだったかもしれませんね?

そんなこんなで、メールには断固返事を出さず、
電話にも出ず、居留守を使いまくり、
なんとか逃げ切ったわけですが、
今でも思い出すと、
ドン引き8割、郷愁2割です。
惹かれる気持ちは、バカみたいですけど、やはりあるのです。
もし私がロシア人だったら、ああいう奇妙さを拒絶しないで、
ちゃんと受け入れることもできたかも。
いや、もちろん、友達としてね。
ロシア人って言うのは、どこかそういう大きいところがありますからね。
だけど、やっぱり私は日本人で、
ちょっとああいうエネルギー体は怖くて、ついていけないし。

そんな人に是非おすすめなのが、
このユーゴ・ザーパド『巨匠とマルガリータ』。
日常のなかで奇妙奇天烈さを受け入れることが出来ず、
なおかつ憧れ続けるならば、
せめてお芝居でも観るよりほかはないじゃありませんか。
皆さんも是非。是非。
日本におけるロシア演劇市場を少しでも広げるためにも(こっちが本音?)。

明日のヴォラント役者が楽しみ。
どんな人が演じて、どんな演技をするのかしら。
あの奇想天外なお話を、どう舞台化しているのかしら。
たぁぁぁのしみ!






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