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赤毛のアン

私は最近、「赤毛のアン」を読みました。
Netflixで『赤毛のアン』がドラマ化されていて、何だか懐かしくなったのですね。
と同時に、ドラマの方はネットフリックスらしく山あり谷あり、
人間の醜さを若干グロテスクに描きだしており、
おやあ、こんなエクストリームな話だったっけ、と思ったので原作を入手したのです。
そうして原作を読んでみましたら、これがまた、本当に名作。
やはり年月が経っても色の褪せない名作というのはありますね。
心が洗われましたよ。

例えば、アン・シャーリーがこの小説の中に初めて登場する時、
モンゴメリはアンをこう描写するのです。

年は11歳ぐらい。(省略)
小さな顔は白く、やせているうえに、そばかすだらけだった。口は大きく、同じように大きな目は、そのときの気分と光線の具合によって、緑色に見えたり灰色に見えたりした。
ここまでが普通の人の観察であるが、特別目の鋭い人なら、この子の顎がたいへんとがって、つきでており、大きな目にはいきいきした活力があふれ、口元はやさしく鋭敏なこと、額はゆたかに広いことなど、つまりひと口に言えばすぐれた観察眼をもっている人だったら、マシュウ・クスバートがこっけいなほどびくびくしている、この大人びた家無しの少女の体内には、並々ならぬ魂が宿っている、という結論に達した事であろう。


私はこの一節を読んだ時、電車の中にいたのですけど、
思わず泣きそうになりました。
作者モンゴメリのこの感じね。
この、アンにたいする思い入れというか、贔屓の引き倒しというか、
なんて肩入れしているんだろう、と思ったのですよね。
公平にアンをジャッジするなんてことは、モンゴメリは一切しないのです。
「なみなみならぬ魂」。
それがどういうものかはよく分からないけれど、
なんとなく小さな女の子の中には入っていそうにないもの、
それどころか、赤ん坊から老人に至るまで、
ほとんどの人間に入っていないし、
自分にもないから他人にそれがある事を想像できない、
そういう類まれなる資質が、
このアンという孤児の中に「ある」とモンゴメリは断言するのです。
ということは、モンゴメリは「なみなみならぬ魂」を信じていて、
しかもそれこそが人間の中で最上の宝だと思っていて、
その最上の宝を自分の最愛の主人公に与えるのです。
それが何となく感動的でね。

そしてアンの投げ込まれるプリンス・エドワード島という環境も、
ネットフリックスのドラマで描かれるような浮世のリアル地獄ではないのです。
アンは孤児だということで学校でいじめられることはないし、
むしろすぐに人気者になるのです。
孤児院でも壮絶ないじめを受けた訳ではないし、
失敗をしてもマリラやマシュウは決して孤児院に送り返すような事は匂わせない。
アンを偏見で村八分にするようなことは起こらないのです。
で、こういうのをみると、「リアルじゃない」「人間社会はこんなものじゃない」と思いがちですけど、
でも「孤児はいじめられる」「貧乏人は仲間外れになる」「田舎は閉鎖的」、
「人間はしょせんこんなものだ」みたいな「お約束事」って、
昔はそれほど絶対のルール(=常識)じゃなかったのだな、と思えるだけでも、
古い小説を読むのはいいなと思ったりします。

私は泣きそうになって、
「ああ、年を取って涙もろくなったな、私は」と思いました。
それから、
自分でその考え方を、いやな考え方だと思いました。
モンゴメリがアンに対して持っていた愛情の半分も、
自分は自分自身に対して持てていない。
私が涙もろいのは年を取ったからではなくて、
私が人間で、
ちゃんとまだ本を読んで感情を動かされる想像力を維持していて、
より良い世界を望んでいるからなのに、
しかも40歳を超える前から、小説を読んでよく泣いていたくせに、
私は「年を取った女は涙もろくなる」みたいな大雑把で残酷なジャッジを、
自分にも他人にもよく下すのです。
そしてその残酷なジャッジというものは、公平そうに見えて実は真実の一面しかとらえておらず、
そのくせ世界を索漠たる砂漠みたいなものに見せるパワーだけは強烈に持っている。
良くないなあと思いましたよ。

「赤毛のアン」のような小説を時々読むのは良い事です。
自分の人生の眺め方を、少し方向転換させてくれると思います。
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