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さよなら、タンテ・ヘニー

9月13日の土曜日に、
私は日本から来たお客さんとサッカーの試合を観に行きました。
20:45から始まるフェイエノールトVSウィレム2戦です。

なにしろサッカーに全然興味がないもので、
スタジアムでのサッカー観戦は初めてのことでしたが、
思っていたよりもスタジアムは清潔で係員も親切、
ナイターの灯りがキラキラ光って、芝生の緑が鮮やかで綺麗でした。
恐れていたフーリガンたちも、
普段トラムや地下鉄で見る暴れん坊な姿と違って、
スタジアムの中ではひたむきなばかり。
私の右隣に座っていた男の子は、
齢22、23歳くらいの大きな子でしたが、
応援歌を熱唱しながらぴょんぴょん飛び跳ね、
応援歌が終わると今度は座って、黙ってじっとグラウンドを見つめるのです。
ああ、本当にフェイエノールトが好きなのだな、
惚れ込んでいるんだなあと、
可愛らしかったです。

ところがね、
試合が始まって10分くらいしたところで、
私の携帯電話がビビッと震えるのです。
見ると、私のオランダ人がメッセージを送ってきていました。

「ヘニーおばさんが死んだよ。今聞いたのだけれど」

びっくりして、頭が真っ白になりました。
そのあと私のオランダ人がもう一言。

「マタイも死んだ。ペーテルの息子の」

ペーテルはオランダ人の従兄弟です。
マタイはお腹にいる時から心臓に障害があることがわかっていた子で、
中絶したほうが良いと医師から勧められながらも、両親が頑張って生んだのです。
生まれた時からずっと病院生活で、
手術・手術・手術の繰り返しの生活。
多分今4つか5つだったのではないかと思うのですが・・・

「えっ」と呟いて、
その直後にフェイエノールトが最初の一点を奪われたものだから、
はからずしもゴールを予言したような形になりましたよ。

そこから先は、頭の中と現実がどんどんパラレルになっていきました。
芝生の青の鮮やかさの中で元気に駆け回る選手を眺め、
笑ったり話したり、コーラを飲んだりしながら、
頭の中では、
「タンテ(おばさん)・ヘニー...。」
と思っているのです。

タンテ・ヘニーはオランダ人のお父さんディックのお姉さん。
今年86歳です。
私がオランダに来たばかりの頃から、
家に招待してくれたり、誕生日にはカードをくれたり、
言葉の不自由な私を何くれとなく気にかけてくれた人です。
知的で誇り高く、心のきれいな人でした。
私はタンテ・ヘニーがとても好きだったのです。

最後に話した時、
私はタンテ・ヘニーに養老院に入ったらどうか、と勧めました。
家で深夜に転んでしまって、
そのまま朝まで床に転がっていたという話を聞いたからでした。
その時にタンテ・ヘニーはきっぱりと、
「いいえ、私は死ぬまで家にいたいの。
 どこにも行かないつもりよ」と言いました。
そして希望通り、最後まで自分の家に居たという訳です。

それにしても見事な退陣でした。
朝普通に起きて、
ケア・サービスで半日施設にいて、
一度転んだけれど起き上って、
そのあと元気にご飯を食べて、
しばらくたって係りの人が来た時には心臓が停止していたそうです。

身体はどんどん利かなくなっていったけれど、
頭はずっとクリアで意志的で、
人格を失わずに美しい最後でした。

それにしても、「もう会えない」ということは、
なんと寂しいことか。
私の手元にはまだ新しいポストカードがあるのです。
タンテ・ヘニーとタンテ・ティティ(伯母さんは二人いるのです)に出そうと思って買ったものの、
書くのを後回しにしていたカードです。
「真珠の耳飾りの少女」のパズルになっていて、
バラバラにして、完成させるとメッセージが読めるというものですが、
タンテ・ティティは軽い痴ほう症を発症しているし、
タンテ・ヘニーは関節炎で指が変形しているから、
果たしてパズルが完成させられるのか?と思って、
考えあぐえてズルズル後回しにしていたのです。
この出さなかったポストカードが、
本当に後悔の源でね。
もう二度と受け取ってもらえないなんて思わなかったものだから。

フェイエノールトの試合は2-1で負けました。
戦いっぷりは本当に悪くて、
1点取れたのはウィレム2のホームチームに対する妥協じゃないかと思えたくらい、
常に押されっ放しの展開。
周り中が「ちくしょう・・・!」と罵り、
右隣の男の子もシーンと黙り込んで両手を握りしめていました。

私も別の意味でしーんとしていましたが、
まあ仕事だし、
お客さんもいるし、
長い人生を生きてきた古狐の一匹として、
普通にしていましたけどね。

なんなのだろうなあ、
今も普通にしていて、
別に泣いたりしていませんが、
そして、タンテ・ヘニーとは普段から会っていた訳でもないから、
生活自体は何一つ変わりはしないのですが、
しみじみと、
・・・なんでしょうね、
やっぱり寂しいのだと思います。
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