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ヘニーおばさん怒る

今日の夕方、Tante Henny(ヘニーおばさん)から電話がかかってきました。
この間アントワープに一泊旅行に行った際、
駅からはがきを送ったのだけれど、そのお礼ですって。

タンテ・ヘニーは私のオランダ人の父方の伯母さんで、
御年86歳。
独身で、子供もなく、一人暮らしをしています。
若い頃はアフリカで研究員をしていただけあって、
頭はまだまだシャープですけれど、
リュウマチを患って歩けません。

この間、私のオランダ人のお母さんが電話をくれた時に聞いたのは、
タンテ・ヘニーは短期間に3回転んで、
そのうちの1回は深夜にトイレに行った時に転んだものだから、
朝になるまで発見されずにひと晩じゅう床に転がっていたという話。
もともと自立心のある人だから、
迷惑をかけたくなくて朝まで電話するのを待ったという訳ですね。
夏だからそこまで寒くはなかったでしょうけど、気の毒な事でした。

私はもともと私のオランダ人のお父さんの一家が好きなのです。
知的で礼儀正しくて、心が温かくて、なんかちょっとユーモラスで、
のんびりしていてね。
特にヘニーおばさんは、
私がオランダに来たばかりの時、自分の家に招待してくれて、
何くれとなく気にかけてくれた人でした。

私が来たばかりの頃にはまだ元気で、
歩くのも話すのも自由で、
本当にヨーロッパのチャーミングなおばあさんの典型だったタンテ・ヘニーですが、
近年は年老いてきて、
傍から見ていてもコントロールが利かなくて困っているのがわかります。
まず歩けない訳だし、
何か落しても自分で拾えないし、
物を食べればこぼしてしまうし、
口を開けば入れ歯が落ちるし、
話を聞けば同じ話を繰り返してしまうし。
しかもタンテ・ヘニーがいかに自分でそれを恥じているのかがわかるのです。

彼氏の健康で体育会系でバカでかい末の弟が、
それを見て笑ったりするから、
タンテ・ヘニーはもうクリスマスパーティーにも出てこないで、
家でひっそりしているのです。

彼氏のお父さんのディックには、もう一人独身の姉がいるのですが、
このタンテ・ティティはアルツハイマーを発症して、
ついこの間施設に入りました。

私もやっぱり結婚していないし子供もいませんし、
どこか引っ込み思案でプライドが高い所がありますから、
タンテ・ヘニーにはまさしく自分の将来が見えて、
他人事とはとても思えません。

「ハガキをありがとう、とても綺麗だったわ。
 美術館に行ったって書いてあったわね、
 オランダ語がうまくなったわねえ」

タンテ・ヘニーは電話の向こうで朗らかです。
矜持があって、泣き言を言わないのです。
私のオランダ人にもこういう所がありますけど。

「ええ、そうなんです。
 向こうでは道に迷ってしまって、
 しばらく変なところをグルグルしていましたけど、
 おかげで面白い道を発見できました」
「ヒッヒッヒッヒ」

タンテ・ヘニーの笑い方はちなみに、
ディズニーアニメなんかに出てくる魔女の笑い方です。

「ところで、ヤニーに聞いたんですけど、
 三回転んだんですって?
 大丈夫ですか?」

と私は聞きました。
タンテ・ヘニーは一瞬黙りましたが、すぐに笑って、

「大丈夫、もう痛くもないし。
 明日は美容院に行って髪を切ってもらうのよ、
 ボランティアの人に連れていってもらうの。
 まったくのタダなのよ、いいでしょう」

と話を変えました。
そこで止めとけばよかったものを、
私は更に続けたのです。

「施設に引っ越した方がいいんじゃないですか?
 人がいつもいる所に。
 だって危ないでしょう?」

「いいえ、私は施設には行きたくないの。
 死ぬまで自分の家にいたいのよ」

タンテ・ヘニーはきっぱりといいました。

「でも、人がいないところでまた転んで、大怪我でもしたら・・・」
「面倒見てくれる人はいるし、一人のほうがいいし、
 自分で出来ることもたくさんあるのよ」

そのあと、タンテ・ヘニーはパアアアッと早口で何か言った後、

「という訳で、さよなら」

と言ってあっという間に電話を切ってしまいました。
そんな切り方をする人じゃなくて、
いつもくどい位に別れの挨拶をする人なので、
ああ、怒っちゃったんだなあと思いましたよ。

まあそう、施設に入れなんて事は、
皆から山のように言われているんでしょうね。
そんな要らない忠告はもう聞きたくもないんだと思います。

私のオランダ人に、

「ヘニーを怒らせちゃった」と言ったら、
「そうだね、でもさ、施設じゃタンテ・ヘニーは幸福にはなれないよ。
 だって行きたくないんでしょ?」

と言っていました。
彼は人の考え方を無理やり変えようとしたりしないのです。

まあ、タンテ・ヘニーは随分長生きもしましたし、
頭がはっきりしているのですし、
彼女が自分で死に場所を選んでいけない訳はないのです。
無理やり施設に入れれば、周りは安心でしょうけど、
彼女自身の意志はその時点で周りの思惑に飲み込まれていくことになる。
やっぱり幸福じゃないでしょうね。

ああ、余計なお世話だったな。
要らない事を言った、本当に。
彼女の意志がこれだけ堅いのだから、
その決断を支えて味方になってあげる方向で考えるべきでしたよ。
善意っていうのは、よくよく考えた上じゃないと危険ですね。

私だったらどうして欲しいのかな。
どうしたいのかな。

考え込んでいるところです。


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