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中世か

ロッテルダムから列車に乗って30分ほどいくと、
デン・ハーグという町に着きます。
デン・ハーグは行政府。
首都は憲法で決められたアムステルダムなのですが、
普通の意味での首都の機能は、すべてこのデン・ハーグに集中しています。

そのデン・ハーグの中心に、
ビンネンホフという官庁が集まっているところがあり、
ここに首相の執務室や国会議事堂などがあります。
そして、そのビンネンホフの斜め向いには、
監獄博物館という、15世紀から17世紀にかけて、本当に監獄だった建物があります。

中に入ると、
一般市民の牢屋や、金持ち貴族のための牢屋(部屋)がみられ、
それより何より、いろいろな拷問の道具が展示してあります。
鞭打ちするときに罪人を固定する台(男女別)だとか、
ヤキゴテだとか、鞭だとか、
手や足を切り落とすための台だとか、
首を切り落とすための剣だとか、
絞首台やさらし刑のために罪人をつないでおく板だとか。
なんか、吊るしておいて重石をつける道具だとかね。
いやあ、なかなか面白い博物館なのですよ。

ご存知の方も多いかと思いますが、
娯楽の少なかった中世ヨーロッパでは、
公開処刑は庶民のスペクタクルのひとつでした。
さらし刑、火刑、体罰(鞭打ちや手足切断刑)、絞首刑などが広場で行われ、
多数の市民が、苦痛と恐怖のうちに死んでいく悪人を見ては興奮して楽しんだのです。

17世紀には、この監獄に、
コルネリス・デ・ウィッテという、ドルトレヒトという町の市長だった人が、
反逆罪(オラニエ公を暗殺しようとした罪)に問われて収監されました。
この人は共和派の指導者だった人で、そのために王党派に罠にはめられたようです。
彼は激しい拷問を受けますが最後まで罪を認めず、
さらに証拠不十分だったこともあって、永久追放という判決は受けますが、死刑は免れました。
ところが市民が、これを許さなかったのです。
放免される日、
激しい拷問でまともに歩けなくなっていたコルネリスを、弟のヨハンが迎えに来ますが、
それを聞きつけた市民が大挙して監獄のまえに押し寄せ、
鍵を破壊して中に入り込み、コルネリスとヨハンを拉致すると、
広場に連れ出しました。
そこで、抑制の効かなくなった市民によって、世にも恐ろしいリンチが始まりました。
彼らは拷問でろくに歩けないコルネリスを滅多打ちにして殺し、ヨハンのことは銃殺します。
その後、遺体の手足を切断し、杭に吊るしてさらし、皮膚を切り裂いて内臓を取り出した、そうです。
当時オランダはスペインとの80年戦争があり、
市民は相当ストレスを感じていて、そのうっぷん晴らしというか、
そういう側面があったようです。
まあ、中世というのは・・・。

などといいつつ、
ところで、最近私は、光市の母子殺人事件の判決が出た、という記事を読みました。
なんでも、判決が出たとき、
レポーターがテレビの前に駆け込んできて、
「死刑!死刑!死刑です!」
と興奮して言ったそうですね。
殺された母と子の夫が、この殺人犯を死刑にするために、かなり運動をしたのだということで、
支持者がたくさんいるとか。
国民の大多数がこの死刑には賛成だとか。
そうなんですか?

日本のTVや新聞、ニュース番組とか、ワイドショーなんかをみていないと、
そういう空気というのは、なかなか正確に伝わってこないものですが、
インターネットの、たとえばニュースサイトのコメント欄などを見ると、
なるほど、やっぱり皆、この殺人犯の死刑執行に関してはかなり積極的に支持しているのかな、
という感じがします。
と同時に、読めば読むほど、
「中世か!」
というつっこみを入れたくなりました。
「コ・ロ・セ!コ・ロ・セ!」てなっている市民たちにね。
あの、ほら、一時期、「欧米か!」というフレーズが流行ったのでしょう?
あれのバリエーションで(笑)。

だからって私にしても、この殺人事件の記録を見ると、犯人に同情できるわけじゃないんですけど。
もし私がこの旦那さんだったら、やっぱり半狂乱になって、
犯人を絶対に殺したいと思う、と思います。
少なくとも、この人の人生が、どうしようもなく愚かで残酷な人間によって、
理不尽に破壊されたことは間違いのないことです。
そしてこの人生を滅茶苦茶にされた人を、
なんとか助けてあげたい、復讐させてやりたいと思うのは、
まあ人情ですよね。

想像もつかないくらい冷酷で、クレイジーでサディスティックな人間というのは存在します。
興奮して、おさえが効かなくなると、ものすごい暴力を振るう人間とかね。
日常的に他人を圧迫して、そこに快感を見出す人とかね。
弱い者いじめが大好きな人とか。
そういう人が、ある日、一線を越えて、事件を起こす。
その人がやったことの詳細を記事で読むと、
もう恐ろしくて、目をおおわんばかりで、
こちらは怖いから、一刻も早くこの世からいなくなってほしいと思う。
または、被害者が感じたのと同じような苦痛を、この犯人に、あますことなく味あわせたいと思う。
死刑にしてほしいと思うし、拷問してから死刑にしてほしいと思うし、
その苦痛を出来るだけ長くひきのばしてほしいと思う。
倍返しで。

だけど、考えてみれば、
クレイジーでサディスティックで冷酷な人間は、
それゆえに人が殺せるのであって、
いくら仕返しだからといって、
同じ事を彼に仕返せる国家であっていいのか。
普通の人間は、絶対にクレイジーで冷酷な人間と同じ事を出来てはいけないと思うし、
その普通の人間の集合体である国家であればなおさらのことです。

被害者の遺族が、加害者の死を願い報復を求めるというのは、
仕方のないこと、というか、当然の成り行きだとしても、
国家や国民がその感情にのっかって、
国のシステムを使って加害者に報復する・それができるというのは、
違うと思う。それはすごく怖いことですよ。
ハムラビ法典じゃないんだから。

理由があれば人を殺していいと考えることは、
非常に危うい考え方だと思います。
理由があれば人をひどい目にあわせていいと考えることも。
自分が直接手をかけるわけじゃなくても。
それはやっぱりねえ、中世マインドですよ。

それにしても、死刑を望む声がこれだけ高いというのは、
人間の心の中の中世はそう簡単になくなりやしないということなのでしょうか。
「一歩前進、二歩後退」という、レーニンの著書は、社会主義国家創立の際の大会の議事録だそうですが、
人間の歴史というのも、そんな風にして進んでいくのかな。

裁判が長すぎる、という意見もたくさん目にしましたが、
死刑みたいな、人の命が懸かっている案件に時間をかけない国家って、
ろくなものじゃない気がします。
例を挙げれば、スターリン時代のソビエトとか?
あの時代の裁判は短かったらしいですからねえ。
時々裁判は省略されて判決だけ出ることもあったらしいですよ。
死刑だろうがなんだろうが、最終的には5分、10分で。
まあ、早いといったら早いですし、
当時を知る人は、
「ソビエト時代は今と違って治安がすごく良かった」と口をそろえて言いますから、
もしかしたら有効なのか?
でも、それで良いかといわれれば、やっぱり全然良くないですよ。
何万人もの人が、無実の罪で亡くなったり流刑になったりしたわけです。
やっぱり近代国家は、生ぬるいくらいに人道的でちょうど良いと思うんですけど・・・

つい最近、ノリノリになって
「こ・ろ・せ!こ・ろ・せ!」というモードになった層は、
間違いなく中世のビネンホフ前の公開処刑に興奮したのと同じ層でしょうし、
戦時中、列車の中で綺麗な格好をしている女性の髪をつかんで、
「非国民!」と罵ったかの高名なる日本男児と同じ類でしょうし、
たとえばアメリカで盗みを働いた黒人をリンチにかけて木に吊るした白人なんかも同じ種類だと思います。
さかのぼれば、イエス・キリストに十字架を背負わせて、ゴルゴダの丘を登らせたのも、
同じ種類の情熱だろうと思うのです。

いや、この光市の犯人がキリストみたいって言ってるわけじゃないんですよ。
でも当時のイスラエルにいたユダヤ人たちにとって、
キリストがこの光市の男の子以上の悪人じゃなかったと、誰に言い切れるでしょうか。
彼らは彼らなりに、やはり正義を貫こうとしたのだと思いますし、
悪人にそれ相応の罰を与えようとしたのだと思います。

やっぱりねえ、今この場で何が正義なのかって、
わたしたちのはかない頭脳ではわかりっこありませんよ。
だったら、取り返しのつかないような極端な行動は、やらないに越したことはないでしょう。
後の世の人間から、それがどういう感じに判断されるのか、
ちょっと立ち止まって考えてみた方がいいと思います。
長い目で。
短い目で考えると、遺族の気持ちとか被害者の権利とか、
身近に感じている恐怖とか、コンビニ前でたまっている若者たちにたいする殺意とか、
細かいディティールがいっぱい出てきて、
どんどんわからなくなっていっちゃうから。

で、やっぱり最後はね、
「中世か!」

という突っ込みを、常に自分にもまわりにも課すべきだと思うんですよね。
本当に。



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