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エホバの証人 NL

それはその朝、一本の電話から始まりました。


朝9時30分、彼氏が仕事に出かけていった直後、

私が歯を磨いていたときのことです。

ジリリン、ジリリン。

電話が鳴りました。

朝に電話が鳴ることなんて、滅多にないのです。

というか、半年オランダに住んでいたなかで初めてです。

普段はオランダ語が恐ろしくて滅多に受話器をとらない私ですが、

思わず受話器に手が伸び、

気がついたら「ハロー?」と言っていました。

すると。


「あのー、もしもし?」


・・・・!

に、日本語?!


しかも全然知らない女性の声で。

電話の向こうの見知らぬ人が日本語を話すなんてのは、

日本にいれば当たり前だけれども、

ここはオランダですからね。

全然当たり前じゃないですよ。

というより、心臓がきゅっとなるくらいの衝撃です。


「は、は、は、はい。はい?はい。」


とりあえず一杯「はい」と答えましたが、

頭の中は「どうして?」で一杯です。


すると、

「私、ケリちゃんの・・・」

と向こうが言うではありませんか。

そこでやっと、全てが腑におちました。


ケリちゃんというのは、おそらく私のクラスの中国人カイリのことです。


カイリというのは、真面目で、努力家で、無遅刻無欠席、

成績優秀な優等生。

カイリは私よりも年下ですが、

頭がいいのでいつでも状況をちゃんと把握しているし、

面倒見も良くてねえ。

わからないことは常にカイリに聞いていたものです。

言語的によっぽど近いところにいるヨーロッパ系の学生と、

唯一張り合っていけるアジア人でしたね。

しかも、努力で。努力だけで。

どれだけ勉強してるんだろうなあ、みたいな人でした。

つい最近中国に帰ることになって、オランダ語教室を辞めたのですが、

二コール(先生)が非常に惜しんで、お別れパーティすら催したくらい。

脱落者がぼろぼろ出ているクラスで、お別れ会を開いてもらえるなんて、

ひとえにカイリであればこそなのです。


ところで、

そんなカイリは、エホバの証人でありました。

そう、あの、輸血をしてはいけないという。

そう、あの、クリスマスを祝ってはいけないという。

そう、あの、十字架を崇めてはいけないという。

そう、あの、隔週で勉強会を開くという。

あの聖書原理主義者たちの一人なのでありました。

まあ、信仰にでも支えられていなかったら、

人間あんなに真面目に生きられるもんじゃないですよねー・・・。

カイリに聖書の話とか、戒律の話とか始めさせたら、長かったですよ。

半端な興味じゃついていけないくらい、マニアックで深い話が多かったな。

ヘラヘラして聞いてるうちに、

あ、これ笑うところじゃない

と不意に気がついたことが何回もありました。


そんなカイリが、この間別れの席で、

私とMぴーに、日本語の本をプレゼントしたいと言い出しました。

知り合いの日本人女性あてに本を送るから、自分が中国に帰ったあと、

彼女からその本を受け取って欲しいと。

私とMぴーは「ありがとう」って言いましたよ。

突然贈り物があるって、他でもないカイリからそんなこと言われたら、

それはありがとうって言いますよね。

すごく嬉しいって。


だから、電話を聞いたときも、すぐにぴんと来ました。


「ケリちゃんでしたっけ?彼女から話は聞いていると思いますけど、

 その件で、ぜひお会いしたいですけど」


とその女の人は言うのです。

ていうか、カイリとそんなに親しくないのか?

滑らかな、明らかにネイティブの日本語なのですが、

どこかひっかかりがあるというか、時々ぐらっと怪しくなる話し方。

ハーフなのかも、と私は思いました。


「今日の朝か昼くらいに、お伺いしてもよろしいですか。」

「あの・・・朝はちょっと。12時半まで学校なので、その後でしたら。」

「そうですか、それではその頃にまたお電話します」

「わかりました。お願いします」


そう言って一旦電話は切れました。


次に電話があったのは12時37分のことでした。

多分、時計を見ながら待っていてくれたんだな。

そして、一番いい瞬間を見計らって電話をくれたんだな。

そう思いましたね。

つまり、授業が終わる直後ではなく。

移動して自転車に乗るほど間を空けさせず。

荷物をまとめて、皆と挨拶を済ませて、上着を着て、教室から廊下に出る。

そしてちょっと歩き出す。

その間約7分ほど。

その瞬間に掛かってくる電話。

こんな風に緻密な計算をした電話をかけるのは、

日本企業くらいかと思ってましたよ!


「1時くらいに、お会いして、お話がしたいのですが。よろしいでしょうか?」

「はあ。それでは、私、駅の近くに住んでいますから、セントラムのほうまで行きましょう」

「セントラム?いえ、私たち、私ともうひとりオランダ人の友達がいるんですけど、車なんですよ。

 車をとめる場所もわかりませんし、今セントラムのあたりは渋滞がひどいので、

 やはりお宅に伺いますよ。」

「うちに・・・?は、そうですか、わかりました。お待ちしています。」

「それでは、1時に。」

「あの、それで家の住所なんですけど・・・」

「ああ、知ってます。」


・・・知ってる?うちの住所を?


・・・どうして?


そうか、私の電話番号を知ってるくらいだから、

住所もカイリが教えたのかな。

そうか、そうか。


でも電話を切って、考えているうちに、どんどん不安になってきました。

私もやはり、東京生まれ東京育ち、

大都会で、疑心暗鬼の神様と一緒に大きくなりましたからね。


住所も電話番号も握られている感じ。

電話のかけ方が、非常に仕事っぽい感じ。

突然、友達と一緒に、見ず知らずの人の家に直接来る感じ。


本を届けてくれるんだと思ってたけど、

これはやっぱり・・・。


エホバか?


不安なときは、友達に電話。

「パンが一切れあったらジョニーと僕とで半分こ」のルールです。

私は同じ学校の日本人友達、ぞんちゃんに電話しました。


「はいもしもしー」

「もしもし、カチカですけどー」

「ああ、どうもどうもー。ひさしぶりー」

「ひさしぶりー。今日これから家来ない?」

「なんやのーん、とつぜーん?」

「うんちょっとさー。これこれこういう訳でさー。

 エホバの証人がうちに来るんだと思うのー。

 独りじゃちょっと怖いからさー」

「はははー。なんやねーん。

 だけど私、今、アムステルダムの近くにいるのよー。

 大阪から友達がきててなー。ごめん、いけへーん。」

「あ、そう、わかったー」

「けどなー、ぜんぜん知らない人やろ?

 絶対うちにあげたらあかんでー。

 玄関口で帰ってもらい!」

「そうかな?」

あたりまえやーん。そんなん絶対やでー。あかんで!

 そんならまたねー」


そういう感じで「家にはあげるな」という方針を得ました。

「あたりまえ」って言葉に、私は弱いですよ。


だけど、家にあげないっていったってね。

向こうがあがる気満々だったらどうするの。

しかも、カイリの知り合いなのに。

良い人かもしれないのに、玄関で「それじゃ」とか、

そんな失礼なこと言えないですよ。

無理無理。

気の弱い私にそんなハードルは高すぎます。


そこで、しばらく考えてから、

教えてもらったあの女性の携帯に折り返し電話を入れて、

ロッテルダム駅前のEngelsという名物喫茶店にロケーションを変更してもらいました。

かなり渋っていたけど、そこは気がつかない振りで。

かなりキョトンとした女の子を装って、

「自動車も、どこに置いたらいいかわからないしー」といって許してもらいました。


まあ、門前払いよりはましでしょう。

たんに良い人で、友達になれそうだったら、

勧誘でもなんでもなくて、私の杞憂だったら、ごめんなさい。

その時はコーヒーおごりますから。


そんなことを心の中で呟きつつ。


Engelsまでチャリをとばして、待つこと15分。

彼らはやってきました。

オランダ人女性と、日本人女性の二人組。両方とも中年女性です。

日本人女性は、生粋の日本人でした。

ただ、夫がベルギー人で、もう30年もベルギーとオランダで暮らしているとか。

なるほどねえ。

それで日本語がちょっと変な風にあやふやになってきてるのかな。

30年もこっちで暮らしたら、私もこんな風になるのかしら・・・。



「ごめんなさい!遅れてしまって。なにしろすごい渋滞で。

 今駅前ですごい工事しているし、大変でしょ。

 次にお会いするときには、やはりお宅にしていただけるとありがたいんですけど....」


次?

つ、次って・・・?

お宅にして頂けるとありがたい・・・?

これは、もう何かのコースがスタートしているのだろうか?(戦慄)


でもそうは言っても二人とも、普通に良い人たちでしたよ。

感じが良かったし、優しかったし。

やっぱり布教活動が目的でしたけど。


一緒に勉強したいそうです。

聖書は愛の教えだそうです。

カイリの言っていた本のことは自分には何のことだかわからないけれど、と、

本の代わりに「目ざめよ!」というパンフレットをくれました。

サブタイトルは「ついに病気のない時代!」というの。

あまり読みたくなかったので、


「あーこれ、カイリから貰いました。何冊か貰いました。 

 手元にあるので、いりません。」


と適当に大人返事をしたところ、


「ああ、そうなんですか。それじゃ、目を通してくださったのね。

 ありがとうございます。」


と彼女はにっこり笑いました。

そして、あろうことか、


「それで、お読みになられて、どう思われました?

 なにが印象的でしたか?」


・・・!!


そんな具体的な質問、反則ですよねー!

答えられるわけがないじゃないですか。

読んじゃいないのに。

罠ですよ。


「えっ・・・。あの・・・それはですね・・・。ええと、

 ・・・何が書いてあったけなあ。

 ええと、ええと。忘れちゃった。

 ・・・すみません、もう一回見せていただけますか・・・?


 あーなるほどーおもしろいですねー(←ごまかし)


そう言ったら、

次から次に号違いの「目ざめよ!」を出してきて、

「差し上げます」って言い出すので、

さすがに「興味ない」と正直に言いましたけどね。

もう30歳なのに、しどろもどろになっちゃった。


そうはいっても、私は意外と、宗教の話は好きなんですけどね。

まあインチキな宗教観に基づいているわけですが、

暗示とか象徴とか、奇跡的な偶然・一致とか、好きですしね。

演劇アカデミーにいた頃は、神と絡めて台本を読み解いていくの、すごく好きだった。

解釈の無限性とか、整合性とか、宗教団体の歴史的な不正義を言い立てるのとか、大好きですし。

身を入れてこの人と話し出したら、

意外に、2、3時間は平気で経っちゃうかもなって思いました。

ていうか、経っていました。


だけど途中からやっぱり面倒くさくなってきて、

のらりくらりと逃げ回って、

「また会いましょう」というのを

「うーん・・・。そう・・・です・・・ねえ」と言葉を濁して、

振り切って帰ってきたんですけど。


だけどねえ、

その帰り道、どうも心がモヤモヤ嫌な気分なのです。

何かなあ、何かなあと思っていたのですが。


考えてみるに、あの女の人達が2人で来た、ということなのです。

そもそもの、モヤモヤの根本にあるのは。


日本エホバさんが、日本人の私と、日本語でずっと話すわけだから、

日本語のわからないオランダエホバさんなんて、いなくてもかまわないのです。

途中で日本エホバさんが、愛の種類が幾つあるかわからなくなっちゃって、

すっかり混乱した末に、

「えーと、アガペーでしょ、エロスでしょ、あとピリアっていうのがありますよ、

 それと・・・それと・・・あら?三種類だったかしら?四種類よねえ?

 3?4?あがぺー?エロス?ねえ、どうだったっけ?」

て聞いたときに、

「ええと・・・アガペーでしょ、エロスでしょ・・・・あら?あがぺーは?言った?」

て自分も混乱して、お役に立ってなかったし。

まったく何のためにいるのかわからないオランダ人を、

それでも横に座らせておくのは何故か。


私は、

日本エホバさんがひとりでくるのが嫌で、

オランダエホバさんに頼んでついてきてもらったんだろう、

なんてふと思ったのですよ。

そりゃあ、勧誘のマニュアルがそうなのかもしれないですけどね。

まえ創価学会に勧誘されたときも二人組みだったし。


でも、それにしても。


こっちは宗教の勧誘なんて、詐欺に近いような感覚があるから、

こっちばかり面倒で怖いんだと思っているけれど、

あちらの立場に立ってみれば、

知らない人に、嫌がられるってわかってて会いにいくなんて、

怖いし、しんどい事ですもんね。

私だって一人では嫌ですよ。


こっちの警戒心をはじめから想定したうえで、

聖書なんか取り出して、「愛はね・・・」みたいな、「アガペーと・・・」みたいな、

自分でもよくわかっていない、胡散臭い話を始めなくちゃいけない。

なのに、自分が本当に真実だと感じていることは、

言葉によってゆがんでしまって、変な風に誤解されて、

いつでもちゃんと通じない。

そうして、初対面の人に、やんわりと、またはきっぱりと、つきあいを拒絶される。


これ、商売でプロの人がやっているんだったら別ですけど、

素人がボランティアでやらなくちゃいけないんだとしたら、

ずいぶんストレスのたまる話ですよ。

大体、私がそれで勉強会に行くようになったって、

あの人達は1ユーロだって受け取るわけじゃないんでしょう。


ずいぶん、よそよそしく、関係を断ち切ろうとしちゃったよなあ。

最後に、


「またひと月後くらいに、連絡を取って、

お話しをさせていただいても宜しいでしょうか?」


と聞かれたときに、


「え・・・・。うーん・・・。」


と返事に困っていたら、

急に相手が、


「でも私、忘れっぽいので、

 忘れちゃうかもしれないんですけど。

 忘れてしまっていたら、そちらから声をかけていただけますか」


と言ったのです。

渡りに船とばかり、


「ええ!ええ!もちろん!是非。


て応えましたけどね。

かけるわけないだろと思いつつね。


後から考えると、多分、心に引っかかっているのは、

この台詞を言ったときの、

彼女の表情の引っ掛かりじゃなかっただろうかなんて思ってしまうのです。


彼女だって、自分にドン引きしている人間を、

追っかけていって獲って食いたいわけじゃない。

初対面の人間に、そう思われたかったわけでもない。

でも、そういう役割になってしまった。

多分、この、「忘れてしまったら」ていう仮定は、

双方にとっての逃げ道なんでしょうねえ・・・。


次、もしも電話が掛かってきたときには、

友達づきあいはしようかな。

もうかかってこないかもしれないけど、良い人なんだし。

それとも、そんなことしていると、エホバ証人圏に引きずり込まれてしまうの?

いいや、そんなことはないだろう。

エホバに勧誘はありえないと、日本エホバさんは言っていたし。

Mピーだってイスラム教徒だけど、全然普通に友達になれた。

せっかく日本人に会えたのに、ずいぶん嫌な顔をしちゃったかもしれない。

勉強会には断固出ないで、友達付き合いだけは続けるか。

そんなことあっちがしてくれるの?


そんな埒もないことを歩きながら考えていたら、

なんだかモヤモヤしてきてねえ。


これだから、宗教団体は。

これだから、これだから。

人を勧誘に送り出して、

こんな訳のわからない葛藤を双方に生み出す時点で、

愛もクソもないだろうと思っちゃう。

神様なんて、胸の中にだけ適当にいてくれればいいのに。


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1. はじめまして

何かの拍子にこちらのブログにたどりついて、ロッテルダムにお住まいだということと、演劇を学ばれているということで、なんとなく親近感をもちつつ、3ヶ月くらい楽しみにしていました。

私も以前、エホバの友人がいて(とても良い子でした)、難しい思いをしたことがあります。
なにかを信じているというのは、もう、お互いに届かないところにいる感じで難しいですね。

更新楽しみにしています!

2. ダボーさん

コメントありがとうございます。
ああいう宗教系統の人たちは、
ほんとうにちょっと距離の図り方がわからないところがありますよねー。
金が目的とか、そういう訳じゃないし・・・。
基本的にいい人達ですしね。

またちょくちょく遊びに来てください!
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