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パトルリョーバ

昨日は暇だったので、
ちょっと長めのテクストを訳してみました。

 私は皆さんに、ある魚に起こった、また正確には魚でさえもなく、パトルリョーフという人に、いや、より正確にはパトルリョーフの娘に起こった、あるひとつの出来事について物語りたいと思う。
 その誕生から始めることとする。ちなみに誕生と言えば、うちで床の上に生まれた・・・いや、これはまたのちほどお話ししたい。
 単刀直入に言おう。
 娘・パトルリョーヴァは土曜日に生まれた。この娘をラテン文字でMと呼ぶこととする。
 この娘をラテン文字でMと呼ぶことにしたところで、確認したい。

1、二本の腕、二本の足、住人に長靴を。
2、耳は目と同じものを持っている。
3、走るというのは、足もとからきた動詞である。
4、さわるというのは、手もとからきた動詞である。
5、ヒゲは息子にしかありえない。
6、壁に掛かっているものを、後頭部ではじっくり見ることができない。
17、6番のあとは17がくることに注意。

 イメージに彩りをあたえるために、この17項目を覚えておこう。
 それでは、5番目の項目に片手でよりかかり、このことから何がもたらされたかを見てゆくこととする。
 もしもこの5番目の項目に台車や砂糖や天然リボンでもって寄りかかろうものなら、「ああ、それから、またあれとこれと」などと言わねばならぬところであろう。 
 実際に想像してみよう。そして簡潔さを旨として、たった今想像したことはすぐ忘れよう。
 それでは、何がもたらされたのか、見てゆくこととする。
 こちらをご覧いただきたい。私はあちらをながめることとする。おや、私たちはどちらも、あちらを見ていますよ。
 正確にいうならば、私があちらを見るので、あなたは他の場所を見ていただきたい。
 次には私たちが見ているものを明らかにするとしよう。そのためには、私が見ているものと、あなたが見ているものとの個別性を、自らにじゅうぶん納得させなければならない。 
 私は家の片半分を見ており、あなたはもう半分の町を見ておられる。簡潔さを旨として、これを結婚式と呼ぼう。
 さてパトルリョーフの娘にうつる。彼女の結婚式は、ええと、いってみれば、その時分にとりおこなわれた。もし結婚式がとりおこなわれるのがもっと早めであったなら、私たちは、結婚式は予定よりはやく成立した、と言っただろう。もし結婚式がもっと遅くとりおこなわれていたら、私たちは『波だ』と言っただろう。なぜといって、結婚式は遅く執りおこなわれた訳だからである。
 17の項目、いわゆる羽、が揃った。その先へ進もう。

 
       その先は以前のものより太く
       なまずは灯油管より太い。
       スクリューはたまねぎより大きい。
       本はノートより厚いが、
       たくさんのノートは一冊のノートより厚い。
       これはつくえ 本より大きい
       これは丸屋根 床より大きい
       このつくえは 以前のものより大きい
       以前のものは たまねぎより高い
       たまねぎとは クシより小さいもの
       帽子がベッドより小さいように
       そのベッドは 本のはいった棚が
       おさまるくらいのものだが
       棚は
       帽子より深いし
       帽子は もっと柔らかい、
       スクリューとくらべたら。
       しかしミツバチは ボールより鋭い。
       おなじように 美しいのは
       この塀ぞいと
       こちら側の塀ぞいに生えているもの
       すべての本は スープよりしなやか
       耳は 本よりしなやか
       スープは 燈明より 水っぽくて油っぽい
       それでいて 鍵より重い。

       陳述
       うさぎには口ひげのかわりに両手。
       パパの後頭部にはキジバト。
       お店には四つのボタン。
       バラ園にタンポポ。
       サーベルにマカナシ。
       新聞に八つの記号。
       僕には尻尾がある。
       君にはゆりかご。
       巨人は帽子を持ってる。

            組み合わせ
       嘴つきの家。
       タタール人と子供。
       灯油の上の小船。
       髪の毛のないお皿。
       連続数のあいだのカラス。
       フォーファの破裂音と毛皮外套。
       八方ふさがりのカーリャ。
       手洗い器からルーマニア人。
       天使エルショーフ。

              逃亡
       雄鶏は水から逃げだした。
       ジャンはあごヒゲから逃げだした。
       釘はパラフィン紙から逃げだした。
       ムチはグラフィン(水差し)から飛びだした。
       剣はゴキブリから逃げだした。
       経験はコップの下からのりだした。
       天文学者はワタから逃げだした。
       鍵は細長く横タワっていた。

             組み合わせ
       嘴つきの家。
       タタール人と子供。
       灯油の上の小船。
       髪の毛のないお皿。
       連続数のあいだのカラス。
       フォーファの破裂音と毛皮外套。
       八方ふさがりのカーリャ。
       手洗い器からルーマニア人。
       天使エルショーフ。

              熟考
       これは鍛冶屋じゃなくて、バケツ。
       これは米じゃなくて、マス目。
       これは手袋じゃなくて、倉庫主任。
       これは目じゃなくて、ひざ。
       これは私が来たのじゃなくて、君だよ。
       これはお水じゃなくて、お茶。
       これは釘じゃなくて、ネジ。
       ネジであって釘とは違う。
       毛皮は光じゃない。
       片手のひとは 窓がひとつの部屋とはちがう。
       靴は爪じゃない。
       靴は腎臓じゃない。
       まったく同じく、鼻の穴でもない。

               結論

パトルリョーフ父さんの娘は パトルリョーフの娘さん
つまりパトルリョーフ父さんの娘は パトルリョーフの娘さん
もしそうなら パトルリョーフ父さんの娘は
       つまり パトルリョーフ父さんの娘さん。
       ほら娘、そして父親はパトルリョーフ
       娘はパトルリョーヴァ、父親はパトルリョーフ
       つまり娘パトルリョーヴァの父親はパトルリョーフ
       そして誰も彼が雄鶏だとはいわない
       それは反自然的なことであろう。
         
(1930)

哲学をパロディーにした、ハルムスのエセ科学論文のひとつ。
天使エルショーフ、つまりエルショーフは、
『せむしの子馬』を書いたロシアの有名な作家です。
昨日訳しながら、首をひねりつつ笑っちゃった。
不可思議な傑作だと思います。

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